ヨルダン川西岸の労働許可停止で苦境に 2023/12/19(火) 12:05配信



AFP=時事

建設作業員イブラヒム・キクさん。ヨルダン川西岸ハラスの建設が中断された学校校舎前で(2023年12月6日撮影)。【翻訳編集】 AFPBB News

【AFP=時事】イスラエルの占領下にあるパレスチナ自治区ヨルダン川西岸(West Bank)の住民が、イスラム組織ハマス(Hamas)とイスラエルとのガザ地区(Gaza Strip)での戦闘のあおりで借金を背負い込むなど苦境に陥っている。

【写真10枚】ヨルダン川西岸ハラスの食料品店

 ヨルダン川西岸はイスラエルを挟み、同じ自治区のガザとは離れているが、イスラエル政府は10月7日のハマスによる奇襲攻撃を受け、ガザとともに、西岸のパレスチナ人についても労働許可を取り消した。

 そのため、ヘブロン(Hebron)近郊ハラスに住むイブラヒム・キクさん(37)のように、生活苦にあえぐ住民が増えている。

 子ども3人の父親であるキクさんは、イスラエルで建設作業員として働き、6000シェケル(約23万円)近くの月収を得ていた。しかし、労働許可が取り上げられ、仕事を失った。

 キクさんはAFPに対して、「ぎりぎりで生活していた。借金が増えているが、食料品を買ったり、家賃や水道光熱費を支払ったりしなければならない」と訴えた。借金額は7000シェケル近くに上っている。

 ハラスの住民は約1万2000人。地元当局によると、以前は労働者の7割が毎日、検問所を通ってイスラエルに働きに出ていた。残りはパレスチナ自治政府に雇用されているが、戦闘開始後に経済規模は3分の1以上も縮小し、自治政府は給与支払いに難渋している。

 自治政府経済省の当局者マナル・カルハン氏によれば、イスラエル政府は西岸のパレスチナ人13万人分の労働許可を取り消し、パレスチナ製品にかかる税金6億シェケル(約233億円)を差し押さえた。

 カルハン氏によると、現在、税金の逸失とイスラエルに住むアラブ系住民(パレスチナ人)による観光需要の減少により、自治政府は大きな収入源を失った。

■金製品を切り売り

 西岸のパレスチナ人労働者は、イスラエル政府が自国の労働者に適用している社会保険や失業手当を受給できない。パレスチナ自治政府も、そうした制度を設けていない。そのため、失業者の生活は自助努力に掛かっている。

失業中で、家族・親戚など10人の大黒柱であるタリク・ハラハラさんは「子どもたちに食べさせるため、妻が金製品を持っている人はそれを売り払っている」と話した。

 失業中の建設作業員ジャミル・シアッラさんは、「将来が見通せない。精神的にまいっており、貯金もない」と嘆いた。

■「希望がない」

 悪影響は地元経済にも及んでいる。

 ハラスでスーパーマーケットを経営しているアフマド・ラドワンさんは、売り上げが70%減少し、顧客のつけが累計で売り上げの40%に達したため、後払いでの食料品販売をやめた。

 ラドワンさんは「人々は牛乳や米、砂糖、小麦粉といった基本的なものしか買わなくなった。パンも今では半分しか買ってくれない」と明かした。

 ラドワンさんは6人いた従業員の半分を解雇し、今月中にさらに2人を解雇する予定だ。「希望はない」と言う。

 イスラエル軍は西岸にも定期的に侵攻しており、情勢は悪化している。

 パレスチナ自治政府によれば、ガザでの戦闘が始まって以降、西岸ではイスラエル軍やユダヤ人入植者によって約270人の住民が殺害された。

 自治政府経済省によると、イスラエル軍が西岸に約130か所の常設および移動検問所を設置したため、パレスチナ人は極めて危険な裏道の利用を余儀なくされ、入植者の襲撃を受ける危険が高まっている。

 地元住民は、そうした検問所によって農産物の輸送や労働者の移動が妨げられ、経済は一段と大きな打撃を受けていると話した。【翻訳編集】 AFPBB News

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